【抗体デザイン】Manifold Bio が発表、最新の抗体デザインシステム mBER とは

論文タイトル

mBER: Controllable de novo antibody design with million-scale experimental screening

出典

Just a moment...

要旨

Manifold Bio が発表した mBER という新しい抗体デザインシステムを解説しています。

解説など

AlphaFold-Multimer によるバックプロパゲーション手法をベースにした VHH 設計モデルです。先日紹介した Germinal と類似したアプローチになります。

本手法もオープンソースです。PyRosetta や IGLM のようなライセンスが必要なツールの依存度が低いため、こちらの方が使い勝手が良いかもしれません。

1) 入力と初期化

  • 対象の指定:UniProt ID / PDB ID / 任意 PDB ファイルを入力。サブ領域やホットスポット文字列を渡すと後段のトリミングと設計誘導に使用されます。VHH は部分的にマスクしたフレームワーク配列を必須入力としています。
  • フレームワーク:ヒトIGHV3-23 を基盤にした VHH フレーム群を採用(差分は L5V と S74A など)。

2) 標的テンプレートの準備(エピトープ設計)

  • 細胞外ドメイン抽出:TMbed で膜貫通域を除き、AFDB 予測構造から細胞外部を抽出。
  • 露出残基→ホットスポット選定:SASA で表面残基を取り、各トラジェクトリでランダムにホットスポットを一つ選択(標的あたり ≥10 箇所を試行)。
  • 動的計画法での25Åトリミング:ホットスポット中心に半径 25Å を残しつつ鎖切断最小化するように標的を切り出し、設計対象 PDB を作成。

3) 配列事前分布(PLM による CDR ガイド)

  •  通常は CDR1-3 全部をマスクしフレームは固定(必要に応じて一部フレームも可変/CDR 固定も可)。
  • ESM2 推論:1 回のフォワードでマスク位置のロジットを取り、温度スケーリング後に L×20 の位置別アミノ酸確率へ変換。これを初期化ベクトル&バイアス項として ColabDesign の最適化全段で加算。AbLang2 も選択可。
  • 初期 VHH の立ち上げ:確率から 1 配列をサンプルし NanoBodyBuilder2 で VHH テンプレ構造を作成。標的トリミング構造と一つの PDBにまとめ、設計器へ渡します。

4) 逆伝播最適化(AlphaFold-Multimer × ColabDesign)

  • ColabDesign の binder プロトコル改変:標的と VHH を別テンプレとして与え、鎖間コンタクトマップをマスク。テンプレはCDR 部分の情報もマスクして可動域を確保。
  • 損失関数:主損失は pAE(鎖間)、補助として AF2 信頼度・残基接触・配列特徴。
    テンプレの役割:AF-Multimer は抗原抗体の相互作用予測が難しいが、MSA なしでも情報量のあるテンプレを与えると高 ipTM の複合体を作りやすい(設計・評価の両方でテンプレ使用)。

5) 評価パス(選別)

  • 設計で使わなかった 残り 1 個の AF-Multimer 重みで再フォールド評価(設計と同条件、recycles=3)。主要指標は ipTM / pLDDT(特に ipTM は実験的成功とよく相関)。

実験手法が特徴的で、筆者らは145標的もの抗原に対して数千単位の配列を設計し、すべてをバルクで混合したライブラリを設計しました。そのライブラリは1標的 / well で固相されたプレートを用いてパニングし、NGS解析によって各標的特異的なバインダーを同定しています。

結果として、45%の標的でヒットを取得できたとのことです。データを後ろ向き解析してみると、ipTM > 0.8 のデザインはヒットの割合が高いとの結果が得られています。

エピトープを事前に選ぶのではなく、各標的に対してランダムに10個のエピトープを抽出して網羅的にバインダー設計をおこなっていることも特徴的ですが、計算コストが大きな課題であると考えられます。