論文タイトル
Autonomous de novo protein binder design with Claude
出典

要旨
Anthropicは、タンパク質バインダー設計キャンペーンの「専門家の作業知識」を1本のプロンプトに書き込み、Claude Opus 4.8とClaude Mythos Previewにそれだけを渡して16標的への設計キャンペーンを完全自律で実行させました。
解説など
背景
de novoバインダー設計はRFdiffusionやBindCraft、AlphaProteoなどの登場で「数十~数百設計の中からバインダーが見つかる」水準まで進歩しました。しかし実際にキャンペーンを回すには、どのエピトープ面を狙うか、どのツールを使うか、どこまで最適化するか、どのクローンを選抜するかという専門家の判断が多数必要で、専用モデルと計算資源のオーケストレーション自体も参入障壁になっていました。
本論文の問いは、この専門知識と労力のうち、どれだけをAIエージェントが肩代わりできるのか、です。
本論文の特徴
研究チームは、キャンペーンの「専門家の作業知識」を約16,000語の1本のプロンプトに書き込みました。中身は、
- 科学・ツール知識(標的・エピトープ選定・設計ツールの使い分け・ランキング基準など(34%)
- サブエージェントへの作業委任や検証ルールなどの「オーケストレーション」(35%)
- 計算予算のペース配分などの「運用」(31%)
に、ほぼ均等に分かれています。エピトープ・足場・配列はいっさい指定されません。
人間が行ったのは、
- 標的を名前・UniProt ID・生物種だけで指定する
- クラウドGPUと予算上限を用意する
- Slack等の接続と参考資料を用意する
- キャンペーン開始の合図を送る(あとはインフラ障害時の再開指示のみ)
- 合成発注と結合データの解釈を行う
という限られた作業だけです。設計ツールは何ひとつ事前インストールされておらず、Claude自身が各ツールのリポジトリからビルドし、最初の1時間で動作検証するところから始まります。
キャンペーンは、
- 14標的を同時に48時間で扱う「マルチターゲット」形式
- 1標的に24時間を割く「シングルターゲット」形式
の2種類。
ランキングに使うco-foldingスコア(ESMFold2・ESMFold2-Fast・Protenix v2のアンサンブル)は、事前に公開ベンチマークで検証済みで、当時最強とされたAlphaFold3単体(macro-AP 0.55)を上回る性能を確認したうえで採用されています。
発注された1,315設計の構造生成には、実に10種類のツールが使われました。
- PXDesign(358設計)
- RFdiffusion3(267)
- Genie 3(185)
- FreeBindCraft(135)
- PyRosetta不要版BindCraft(134)
- RFdiffusion(118)
- Proteina-Complexa(100)
- FoldCraft(14)
- BoltzDesign1(2)
- Protein Hunter(2)
プロンプトは主要7手法それぞれに最低50骨格の生成と、1標的あたり最低3手法・単一手法50%以下という多様性の下限だけを課し、実際の配分比率はClaudeの裁量に委ねられています。
配列設計は、以下のモデルが利用されています。
- SolubleMPNN(1,133設計)
- SolubleCaliby(111)
- ProteinMPNN標準版(21)
結果
15標的・1,320設計中354設計が結合し、ヒット率は27%。Claudeが各標的で1位にランクした設計だけに絞るとヒット率は49%まで上がり、ランキング自体に予測力があったことが分かります。
特に目を引くのは、E3ユビキチンリガーゼサブユニットRBX1での結果です。この標的は公開デザインコンペの対象になっていました。結果はKD 3.9 nM(コンペ優勝作は同条件で45 nM)と、Claudeの設計が明確に上回りました。
もっとも示唆的なのは、co-foldingスコアの限界です。事後に統一条件で全設計を再スコアリングしたところ、標的内でのバインダー弁別力は13標的中12標的でランダムを上回りましたが、失敗した3標的(MBP、BBF-14、15-PGDH)のスコア中央値は、大成功したVEGF-A・Nipah Gとほぼ変わりませんでした。つまりco-foldingスコアは「有望な候補を絞り込む」道具としては有効でも、「どの標的で失敗するか」を事前に警告する力は持たない、ということです。実験による検証は依然として不可欠だと著者は結論しています。

