デノボ酵素に「スイッチ」を付ける

論文タイトル

De novo design of allosterically controlled enzymes

出典

De novo design of allosterically controlled enzymes
The ability of enzymes to sense signals and respond by changing their structure and activity underlies cellular processes from signaling to metabolic control. W...

要旨

本論文は、RFdiffusionとProteinMPNNを使い、コンパクトなde novo酵素の活性を、別に設計したタンパク質(エフェクター)が活性化(Janus1、Janus2)または阻害(Janus3)する系を実現しました。

用語

  • エフェクター: 酵素に結合して活性を変えるタンパク質です。本論文では、RFdiffusionで新しく設計した30〜80残基の小さなタンパク質です。
  • tied ProteinMPNN: 複数の構造に同時に適合する1本の配列を設計するProteinMPNNの使い方です。
  • kcat / KM: 酵素反応の指標です。kcatは酵素1分子が単位時間に反応させられる回数、KMは基質との親和性の目安(小さいほど親和性が高い)です。

解説など

背景

Baker研からのレポートです。

天然の酵素は、活性部位から離れた場所への結合で活性を調節されます。これを人工的に再現する試みは、天然酵素に分割や融合、挿入を加える方法が中心で、扱える活性が天然酵素のものに限られていました。近年はde novo酵素の設計や、相互作用を制御するスイッチの設計が進んでいます。しかし両者を組み合わせた「de novo酵素の活性を、設計したタンパク質で切り替える」ことは未達でした。また、従来の合成スイッチは、ドメインをつなげて大きく動かす設計が中心でした。

本論文は、コンパクトなタンパク質が、ごくわずかに違う2つの立体構造を行き来する、天然に近い制御を目指しています。違いが小さいほどエネルギー障壁が低く、切り替えが速いと期待されるためです。

本論文の特徴

本論文の設計では、Win1という de novo 設計セリンヒドロラーゼを出発分子としています。酵素の活性状態と、少し歪んだ不活性状態の2つを用意し、エフェクターの結合でこの2状態のバランスを動かします。

  • 活性化型: エフェクターは活性状態に結合します。エフェクターがないと酵素は不活性状態が安定で、結合すると活性状態が安定化して活性が上がります。
  • 阻害型: エフェクターは不活性状態に結合します。エフェクターがないと酵素は活性状態で、結合すると不活性状態に変わり活性が下がります。

設計の流れ

  1. 不活性状態を作る: partial RFdiffusionで別の立体構造を生成します。触媒残基を2つの領域(His–Aspの側と、触媒Ser・Thrの側)に分け、片方だけを動かします。触媒残基のCα原子が1Å超動いたものを残します。
  2. エフェクターを作る: RFdiffusionで、活性状態(活性化型)または不活性状態(阻害型)に結合するエフェクターを生成します。結合位置は、活性部位から遠い残基に指定します。
  3. 配列を設計する: tied ProteinMPNNで、酵素の2状態とエフェクターに適合する配列を設計します。
  4. 予測でふるいにかける: AlphaFold2でエフェクターあり・なしの構造を予測し、設計モデルと一致するものを残します(RMSD < 2、mean PAE < 5、pLDDT > 85)。阻害型はAlphaFold3も併用し、最終的には専門家が活性部位の配置を目視で確認しました。

阻害型では、活性の絶対値を上げて阻害を観察しやすくするため、触媒のSerをCysに置換しています。

結果

ヒット率は低いが、少数の成功例が得られた

設計状態kcat(s⁻¹)KM(µM)
Janus1酵素のみ0.0033 ± 0.00018.1 ± 1
Janus1+エフェクター0.017 ± 0.000335 ± 2
Janus2酵素のみ0.0005 ± 0.000054 ± 2
Janus2+エフェクター0.0013 ± 0.000032.5 ± 0.3
Janus3酵素のみ0.0035 ± 0.00012.6 ± 0.4
Janus3+エフェクター0.0002 ± 0.000023.7 ± 1
  • 活性化型: 実験した61ペアのうち、エフェクター添加で活性が上がったのは2ペア(Janus1、Janus2)でした。
  • 阻害型: 実験した24ペアのうち、触媒活性を保ったのは8つで、そのうち明確な活性低下を示したのは1つ(Janus3)でした。