論文タイトル
Creating bottom-up RNA transfer vehicles from synthetic protein assemblies
出典

Creating bottom-up RNA transfer vehicles from synthetic protein assemblies - Nature
Synthetic virus-like protein architectures designed by artificial intelligence show superior ability to deliver RNA into cells, compared with their naturally oc...
要旨
RFdiffusionでデザインした「自然界に存在しない対称性・形状」のタンパク質集合体に、膜結合・出芽・RNA結合の3つのドメインを組み合わせることで、RNA輸送ビヒクル(STV)をゼロから100種類以上作り出しています。
用語
- STV(synthetic transfer vehicle): 本論文の造語で、天然のウイルスカプセルを模倣せず、AIが設計した人工タンパク質集合体を土台にゼロから組み立てたRNA輸送ビヒクルのことです。
解説など
本論文の特徴
エンベロープ型ウイルスのカプセル形成タンパク質は、一般に①膜結合、②出芽(細胞膜からの放出)、③RNA結合、という3つの機能を持ちます。著者らはこの3機能を、天然ウイルス由来の部品とAI設計タンパク質を組み合わせて再構成しました。
天然ウイルスのカプセルが複数種類のタンパク質(Gag、Envなど)から成るのとは対照的に、STVは以下のような、単一の合成融合タンパク質が自己集合する階層構造として設計されています。
- 1本の融合タンパク質(モノマー) = 膜結合ドメイン(UaPHPLC)+出芽ドメイン(SynL)+RNA結合ドメイン(tdPCP)+自己集合ドメイン(HE0690)
- この同一の融合タンパク質のコピーが8分子集まって(C8対称)、HE0690部分を介して環状オリゴマーを形成
- オリゴマーが細胞膜上に多数集まり、膜結合ドメインで膜に係留されつつ出芽ドメインが放出を誘導し、tdPCP部分がRNAをつなぎ止めたまま小胞として出芽する
「1種類の合成タンパク質が自己集合するだけで機能する」というシンプルさも、この設計のポイントの1つです。マルチドメインタンパク質のコンストラクトデザインやスクリーニングまで、特に精緻に行っているわけではなく、実験的な機能評価が選抜基準となっています。設計のキモは、足場タンパク質がRFdiffusion由来のde novo設計であることと、膜結合ドメインをFoldseekに計算的絞り込みを適用している点です。
設計から最終構築物STV-C8にたどり着くまでの流れは、次の5段階です。
- 初期プルーフオブコンセプト: まず、正二十面体対称のRFdiffusion設計タンパク質「HE0902」を足場に選び、ラット由来の膜結合ドメイン(プレクストリン相同ドメインPHPLC)と、複数ウイルスの出芽モチーフを組み合わせて新規に作った出芽ドメイン「SynL」を融合しました。ここに複数種類のRNA結合タンパク質を融合しています。
- 多次元スクリーニング系の確立: 数百種類の構築物を効率よく比較するため、①STVの放出量(HiBiTタグと組換えLgBiTタンパク質による発光アッセイ)、②STVの取り込み量(LgBiTを発現するレポーター細胞でのHiBiT/LgBiT再構成)、③RNA送達効率(split-Fluc再構成によるレポーター遺伝子発現)という3指標を同時に定量できるアッセイ系を構築しました。
- 対称性のスクリーニング: RFdiffusionが生成した正二十面体・2面体・環状のオリゴマー(サイズ排除クロマトグラフィーで正しく組み上がったものだけに絞り込み、D2対称は除外)39種を、この3指標で横並びに比較しました。8回対称(C8)の「HE0690」が最良の成績を収めています。
- 上位デザインの追加検証とスケール実証: 成績上位の4構築物(D3対称のHE0490・HE0499・HE0505、C8対称のHE0690)について、別のカーゴRNA(EGFP mRNA)でも高い送達効率を再確認しました。
- 膜結合ドメインの構造ベース探索: 最終段階として、膜結合ドメインをさらに最適化しました。ラット由来PHPLCの立体構造(PDB: 1MAI)を鍵にFoldseekで構造検索を行い、他種・ヒト・メタゲノムデータベース(ESMAtlas)からそれぞれ最も構造が近い候補を選び、計29種類の膜結合ドメイン候補をSynL-tdPCP-HE0690に融合してスクリーニングしました。配列面ではMAFFTによるアラインメント、構造面ではAlphaFold2/ESMFoldによる予測構造とPDB 1MAI構造とのPyMOL重ね合わせでも比較しています。この結果、それまで機能未解明だったクマ(Ursus americanus)由来のPHPLC「UaPHPLC」が最も高効率であることを発見しました。
マルチドメインタンパク質全体の構造設計に対して直接的に設計技術が貢献しているわけではなく、その点は今後の課題と感じます。

